Supporting Women Pursuing Doctoral Degrees 博士号を目指す女性を支援する取り組み

中島 美鈴

2020年3月修了

  • 所属:

    • 株式会社 Time Design Lab(代表取締役)※所属の詳細は記事末尾参照
  • 部局:

    • 人間環境学府 人間共生システム専攻臨床心理学指導・研究コース
現在の仕事内容

 大事にしている仕事は、大きく3つあります。
 1つ目はカウンセリング、2つ目は執筆、3つ目はカウンセラーの育成です。まずカウンセリングでは、大人のADHDに対する認知行動療法を専門としています。日本では大人を対象とした支援はまだ非常に限られているため、専門的に提供できる人は少ないのが現状です。そのため、現在はオンラインで全国から相談を受けて、カウンセリングを行っています。それに加えて最近は、片づけや論文のような、つい先延ばしにしてしまう課題を30日間で仕上げる伴走型のプログラムを始めました。ADHDの特性として、計画は立てられても実行に移すことが難しい場合があります。そこで、計画だけでなく実行まで「見守る」支援を行っています。
 2つ目は執筆です。きっかけは、アメリカ人のスーパーバイザーに紹介された認知行動療法のワークブックでした。日本人向けに作り直した内容を出版社に相談したことを機に、翻訳や出版に携わるようになりました。その後、ADHDの認知行動療法の翻訳を通して海外の研究の進展を知り、日本人に合った支援の必要性を強く感じるようになりました。カウンセリングに来られる方は限られますが、本ならもっと多くの人に届けられるという思いで続けています。
 3つ目はカウンセラーの育成です。法務省では早くから認知行動療法が注目され、全国の刑務所や少年院に取り入れられています。私一人で直接関われる人数には限りがあるので、現場で実施する教育専門官の方々に向けて、スーパービジョンを行っています。少年院の少年たちは、学校の勉強が苦手な子も多いので、どうすれば楽しく、分かりやすく伝えられるかを工夫するのが面白いですね。こうした取り組みが評価されて、福岡県の少年用大麻再乱用防止プログラムの効果研究にも携わってきました。

仕事のやりがい

 ADHDの患者さんのカウンセリングで、「私、悪くなかったんだ」とか「この論文、やっと書けました」と涙を流しながら喜んでくれた時は、本当に嬉しいです。カウンセリングでは、正しい診断を通して、これまで「怠けている」「やる気がない」と言われてきた方が、自分をリフレーミングできるようになることを大切にしています。自分の特性を捉え直して初めて対策も見えてくるので、自分とうまく付き合えるようになってほしいなと思いながら関わっています。
 執筆については、幼少期からの集中力と妄想力で、12日間で書き上げる速書きです。この没頭できる時間が大好きで、かつ、悩んでいる誰かの役に立てるのはこの上ない喜びです。これまで59冊の著書を手がけてきましたが、今でも「増刷になりました」「3万部になりました」というお知らせがくるとやはり嬉しいです。本は編集者や漫画家さんなど、いろんな人と一緒にチームで作るものなので、そのチームのみんなで「やったね」と喜び合う瞬間は一番楽しいですね。
 カウンセラー育成の仕事では、教育専門官の方が、支援者として成長していく姿を見るのがやりがいです。支援者が育つことで、結果的により多くの人を助けることにつながると感じています。

博士課程に進学したきっかけ

 20代の頃から「心の悩みで困っている人のために何かしたい」という思いがあり、執筆や研究を通して認知行動療法に関わってきました。『成人ADHDの認知行動療法」という書籍を翻訳したことをきっかけに、海外ではこの分野が大きく進んでいることを知り、日本でも治療の選択肢を広げたいという思いが強くなりました。その中で、診療報酬制度を動かすには論文というエビデンスが必要だとわかり、「それなら博士課程に進もう」と考えました。転居、転職、出産などが重なり、すぐには進学できませんでしたが、指導教官の黒木俊秀先生との出会いのおかげで、67年越しに進学することができました。

博士課程で大変だったこと・その乗り越え方

 一番大変だったのは、育児と博士課程の両立です。まだ保育園児だった我が子。夕方からのゼミに参加するため、夜9時まで預かってくれる保育施設を探して対応しました。土日は無理をせず、平日に子どもを19時には寝かせて、夜中12時まで研究する生活を続け、常に時間との戦いでした。
 経済面も大きな課題で、夫婦で同時期に博士課程に進学したため、研究費や助成金には積極的に応募しました。入学前から予備研究を進め、学内助成や民間助成、科研費にも申請しました。結果的に奨学金の返済は全額免除となりました。
 また、3年間で博士号を取ると決めていたので、逆算して綿密にスケジュールを組みました。まず博士要件を明確にしてもらい、投稿先の論文の査読が遅いことを見越して3つの研究を同時に進めました。投稿先、査読期間、博士論文の審査のタイミングまで逆算し、3年間の研究計画を作成しました。
 さらに、分からないことを素直に「分からない」と言えたことも大きかったです。「具体的にどう改善したらいいでしょう」と、納得するまで質問することで、多くを学ぶことができました。

博士課程の経験から得たもの

 特に大きかったのは、情報源の見極め方です。博士課程を通して、信頼できるガイドラインや学会など、エビデンスの確かな情報に基づいて考えることの大切さを学びました。また、社会や行政、研究、ADHD支援といった広い文脈の中で、自分の活動をどのように位置づけて説明するかという視点も身につきました。自分の専門性を全体の中で捉えられるようになったことで、「自分の専門はここだな」「ここまでは対応できるけど、ここから先は欲張ってはいけない」といった判断が、以前より明確にできるようになりました。

今後、取り組んでみたいこと

 1つ目は、社会への発信です。これまでに新聞、NHKクローズアップ現代やあさイチなどのテレビ、ラジオ、コラム連載などを続けてきました。目的は一貫していて、世間ではADHDや認知行動療法、心理士の役割がまだ十分に知られていない現状を変えたいという思いがあります。現状では、大学院を修了した心理職が十分に食べていけない現状がありますが、その一因は心理職への認知が少ない分、広告費も大きくかかるからだといわれているのです。だからこそ、啓発活動は重要だと考えます。
 2つ目は、国際的な展開です。博士課程で行った研究は、アメリカのADHDの学術誌に掲載されました。それを読んだスペインの研究者から声をかけていただいて、現在は共同研究を進めています。また、6月にはアメリカで、以前から憧れていた研究者とともに国際学会でADHDのシンポジウムを行う予定です。これまで取り組んできた時間管理プログラムを世界に広げていきたいです。さらに、イギリスのADHDアプリの監修にも携わっており、ますます国際発信にも力を入れていきたいと思っています。

家庭との両立

 子どもが小学生になってからは少し余裕ができたので、自由研究を通して研究の楽しさを伝えたいと思い、仮説検証の考え方を少しずつ教えてきました。今は中学生になり、毎年どんどん進歩して、賞をいただくこともあります。また、夫も同じ時期に博士課程に在籍していたため時間の融通が利き、保育園から民間学童への送迎を担ってくれて、本当に助かりました。

休日の過ごし方

 今は趣味が多くて、バレエ、ホットヨガ、リース作りに加えて、フィンガーフード教室にも通っています。フィンガーフードは、ひとつかみで食べられるパーティーメニューで、可愛い世界なんです。ワインの資格も取得しました。ほかにも、絵を描くことやスキンダイビング、茶道、着物など、いろいろ楽しんでいます。また、サッカー部の息子の試合の応援で泥にまみれながら活動しています。

後輩へのメッセージ

 これほど「好きなこと」を深く掘り下げられる3年間はなかなかないので、ぜひ大事にして形にしてほしいと思います。その際は、なんとなくではなく「絶対に博士号を取る」と決めて、ゴールから逆算して進めることが大切です。私自身、博士号を持っていて良かったと感じる場面はとても多く、特に企業やメディアとの仕事では、それだけで信頼につながることがあります。専門性を発信する上でも、根拠のあるものとして受け取ってもらえますし、国際的な場でも同じ土俵に立つための重要な基盤になります。博士号は決して無駄ではなく、自分の可能性を広げてくれる大きな強みだと感じています。

 

※現在のご所属
・株式会社Time Design Lab(代表取締役)
・独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(非常勤研究員)
・九州大学大学院人間環境学府(学術協力研究員)
・かなめクリニック(スーパーバイザー)