Supporting Women Pursuing Doctoral Degrees 博士号を目指す女性を支援する取り組み

片宗 千春

2019年3月修了

  • 所属:

    • 福岡県保健環境研究所 病理細菌課
  • 部局:

    • 薬学府 創薬科学(薬剤学)専攻
現在の仕事内容

 私の所属する福岡県保健環境研究所は、保健や環境に関する試験研究を行う公的な機関です。その中で私は、感染症の原因となる細菌について調査や研究を行っています。例えば、食中毒の原因を特定するための細菌検査をすることや、感染症の診断に検査が必要だけれども民間で実施できない場合に対応することが仕事です。新型コロナウイルスが日本に入ってきた当初は、県内のほとんどすべての検体が当研究所に集められており、陽性か陰性かを判定して保健所に結果を返す作業を連日行っていました。

 こうした日々の検査業務の中で生じた疑問や課題をきっかけに、研究にも取り組んでいます。細菌分野の例としては、薬剤耐性菌の研究があります。同じ病院内で薬剤耐性菌の感染者が複数発生した場合、通常はそれらが同じ由来かどうか判断が難しいため、菌のDNAを解析して耐性遺伝子や菌の遺伝的類似性を調べ、感染の関連性を推測する、といった研究を行っています。

仕事のやりがい

 もともと勉強が得意だったわけではありませんが、「分からないことをはっきりさせる」ことが好きでした。気になったことを自分で調べて確かめる、その延長に研究という仕事があり、今この環境で働けていることを、すごく恵まれていると感じています。また、県の研究機関ですので、県民の生活に直結する検査に携わることもあります。新型コロナの流行期では、感染しているかどうかの判定がその人の生活に直接影響し、ときには行動が大きく制限されることもありました。だからこそ、「少しでも早く検査をしなければ」という強い使命感があり、それもやりがいにつながっていたと思います。

博士課程に進学したきっかけ

 私が博士課程に進学した理由は、単純に「研究が好きだったから」です。研究を続けていきたいと考えたとき、博士課程へ進むことでより長く研究に携われると思いました。

 進学の動機自体はこのようにシンプルでしたが、その後の進路は少し特殊な形になりました。私はもともと福岡県で働きたいという思いがありましたが、県内には薬学系の研究職がほとんどなく、県の研究職採用も数年に一度あるかどうかという状況でした。博士課程2年のとき、ちょうど学振に応募する時期に現在の職の募集があり、博士号取得後では採用の機会を逃してしまうかもしれないと悩んでいたところ、当時の指導教員から「受かるかどうかは誰にも分からないのだから、どちらにも挑戦してみてはどうか」と背中を押していただきました。

 結果として幸いにも両方に合格することができましたが、私は長く研究に携われる現在の職に就く道を選びました。また、指導教員のご配慮により大学に籍を残したまま博士論文に取り組む機会もいただきました。

博士課程で大変だったこと・その乗り越え方

 私は少し特殊な進路を選んだため、博士課程で大変だった点は一般的なケースとは異なっていたかもしれません。当時の職場の部署は今と違い、ダイオキシンなどの化学物質の精密分析がメインだったので、昼間は職場で化学物質の分析、夕方以降は大学で体内時計やがんに関する研究や論文作成を進めるという日々でした。仕事と大学で扱う内容が全く異なっていたため学習面でも苦労が多かったように思います。

 博士論文に必要なデータは、修士の頃から少しずつ集めていましたが、自分だけでは時間が確保しきれない部分については、同期や後輩が手伝ってくれました。文章は先生が丁寧に添削してくださり、そのアドバイスはどれも的確で、最終的には無事に投稿できる形になりました。また、職場の方々も「頑張ってね」と温かく励ましてくださり、多くの方々の支えのおかげで博士課程での学びを最後まで続けることができたと強く感じています。

博士課程の経験から得たもの

 博士課程に進んで良かったと感じる点の一つは、知識の幅が広がったことです。博士課程で遺伝子解析を通して身につけた知識や技術は、現在の細菌のゲノム解析の業務にも役立っています。職場だけでは得られない知識を大学で得られたことは、本当に良かったと思っています。また、最前線で活躍されている先生方の研究の進め方を横で見ることが出来た経験は、今の仕事で研究を考えていく上で非常に役に立っています。

 研究室で長く過ごせたことも、私にとって良い経験でした。後輩として教えてもらう立場と、先輩として研究室を支える立場の両方を経験できたことで、指導のありがたさや教えることの難しさを実感しました。その経験があったからこそ、就職して新しい職場で後輩として働き始めたときに、人と接するときの姿勢を意識できました。

今後、取り組んでみたいこと

 その時々でテーマは変わるとは思いますが、「病気にならない」ことに繋がる研究をしたいと考えています。現在の部署ならば、「患者の感染原因の究明」や「病原菌の調査感染リスクの評価」などを通じて、感染症の予防や啓発につながる研究に取り組んでいきたいと思っています。今は河川中の細菌について研究を進めていろところです。

 日本は世界の中でも保健所が疫学調査や予防活動に積極的に取り組んでいる国だと思っています。企業等であれば、「病気を治療する」というのが研究の最終目標と思いますが、私たちは公的機関という立場だからこそ営利を考えず素直に「病気をゼロにする」を目標にできると思っています。それぞれ色んな立場からの研究のアプローチの仕方があると思いますが、福岡県に所属しているという点を活かした研究を考えていきたいです。

家庭との両立

 私は、親が共働きで子育てや介護の大変さを痛感しておりましたので、生涯働くためには近くに親戚や知人がいる福岡県でなければ厳しいと思っていました。現在、研究職の公務員として勤務しておりますので、基本的に研究所外への異動が少なく福利厚生は充実している方だと思います。結婚したばかりでまだ子どもはいませんが、子育て中の職員は時短勤務を利用できますし、勤務形態も柔軟に選べます。私自身、結婚を機に北九州に住むようになり、職場までは距離がありますが、勤務開始を9時に変更していただいたことで、無理なく通えるようになりました。制度に支えられて両立できていると感じています。

休日の過ごし方

 プライベートでは、ライブに行くことが好きなので、よく好きなバンドのコンサートに足を運んでいます。コーヒーも好きなので、カフェ巡りや、コーヒーイベントに参加して飲み歩いています。

 それから、キックボクシングにも通っています。強くなるためというよりは、動きを覚えながらしっかり体を動かすタイプのもので、市の体育館で行っている教室に気軽に参加しています。なかなか体を動かす機会が少ないので良い気分転換になっています。

後輩へのメッセージ

 就職を考えるうえで大切なのは、早い段階で自分なりのビジョンを持っておくことだと思います。私の場合は「好きなことを仕事にする」よりも「嫌なことを仕事にしない」という点を重視して進路を考えてきました。何を選ぶにしろ、自分の理想に近づくには準備が必要で、時間がかかると思います。私もどのような就職先があるのかについては大学12年の頃から調べ始めましたが、自分の興味に合う就職先はなかなか見つかりませんでした。進学についても、「就職」と「博士」という単純な二択に見えるかもしれませんが、実際にはどちらにも良い面と悪い面がありますし、就職してからも進路選択は続きます。例えば研究職も、分野によっては博士号を取得してから企業に進んだ方がよい場合もあれば、修士課程修了で就職した方が適している場合もあると思います。就職先によっては業務内容や勤務形態、転勤を含む制度も大きく異なり、途中から希望の仕事ではなくなることもあります。定年までの自分の姿を思い描きながら、興味ある進路の中で「やりたいこと」「やりたくないこと」の線引きを自分なりに整理できるよう、早いうちから情報収集を進めておくことをお勧めします。