Supporting Women Pursuing Doctoral Degrees 博士号を目指す女性を支援する取り組み

永濱 藍

2021年3月修了

  • 所属:

    • 国立科学博物館 植物研究部
  • 部局:

    • システム生命科学府 植物生態学専攻(数理生物学研究室)
現在の仕事内容

 現在、国立科学博物館の植物研究部で研究員をしています。主な仕事は、調査研究、標本の収集・管理、学習支援の三つです。
 調査研究では、植物生態学・分類学の分野に携わっています。具体的には、温帯や熱帯の植物がいつ花を咲かせるかといった季節的変化や、どのような植物がどこに生育しているのかという種多様性を研究しています。大学では植物生態学を専攻しており、植物分類学は現職に就いてから本格的に取り組み始めました。
 標本の収集・管理は、植物標本室(ハーバリウム)の基盤となる仕事です。標本は、植物の形態的特徴がわかるように整えて平らに乾燥させ、A3サイズほどの厚紙に貼った「押し花」のようなものです。私たちは国内外で採集した植物を標本として収集し、他の研究機関から寄贈いただいた標本とともに整理・保管しています。
 学習支援では、来館者からの質問対応や展示企画、講演、標本室見学ツアーのガイドなどを行っています。子どもから大人まで幅広い人々に、博物館での研究や植物の魅力を伝えることを大切にしています。

仕事のやりがい

 植物が季節とともに変化していく様子を観察するのが好きです。ただ、その変化は一時点の観察では分からず、年を重ねて継続的に観察してこそ見えてくるものです。そうした変化を記録することも、データとして解析することも好きで、観察の中で感じていた傾向や変化が数字として表れたときには「おお、やっぱり!」と嬉しくなります。観察中は全く予想していなかった変化を明らかにできた瞬間も、研究の醍醐味です。
 また、博物館の仕事の魅力は、さまざまな人と関われることです。来館者とのやり取りを通して新しい視点を得ることも多く、思いがけない質問から研究のヒントをもらうこともあります。あとは、単純に「面白い」と言っていただけるのはすごく嬉しいですね。

博士課程に進学したきっかけ

 私が修了したシステム生命科学府は5年一貫制の博士課程で、修士課程と博士課程の間に明確な区切りがありません。途中で退学しない限り、そのまま5年間在籍する仕組みです。そのため、正直、少し流される形で博士課程に進学した面もありました。
 でも、「博士課程に進学したい」と強く思ったのは、卒論を終えたときだったと思います。学部4年生の頃は、観察・記録・解析・執筆といった一連の流れでは、先生や先輩にアドバイスをもらいながらも、まだ全体像はよく見えていませんでした。それが形になって、卒論発表会で発表でき、質問をもらったり反応を受けたりしたときに、「面白い!楽しい!」と心から思いました。そして、その瞬間に、「研究を続けよう!」と決めました。

博士課程で大変だったこと・その乗り越え方

 一番つらかったのは、周囲と自分を比べて落ち込んでしまうことでした。学振DCが取れない自分には価値がないのではないかと思い詰め、3回目の挑戦でも一次で落ちたときは特に苦しかったです。最終的には二次審査で採用されましたが、当時の精神状態は決して良くありませんでした。
 ただ、その経験を通して、「失敗した自分を受け入れ、次にどう動くか考えること」が大切だと学びました。私の場合、気持ちを切り替えるときの「作法」があります。まず映画を観るんです。もとから映画に感情移入するのが得意なのもあり、泣きたいときはヒューマンドラマ、笑いたいときはコメディ、と発散したい感情に合わせて観ると、気分がすごくスッキリするんです。そして、スッキリすると、急に、よしっ切り替えていこう、と冷静に前向きになれます。
 あとはやっぱり、どれだけ落ち込むことがあっても生活リズムを崩さないことは意識していました。指導教員や両親からも、ちゃんと朝に起きて、ちゃんとご飯3食を食べ、ちゃんと夜に寝るように言われていました。そうした生活をすると確かに調子がいいですね。身体の調子が整っているときほど、「前向きな切り替え」がしやすくなります。

博士課程の経験から得たもの

 私が大学院在籍中に大きく影響を受けたのは、博士課程教育リーディングプログラムである『決断科学大学院プログラム』に参加したことですね。このプログラムは、いろんな分野の大学院生を集めて、主専攻以外の現場に触れる機会を作ってくれました。社会にあふれる課題の一端を知り、それに対して自分たちがどう対処できるかを考え、困難と限界を目の当たりにする−−−そんな経験をさせてもらいました。私は、医療と災害をテーマにしたグループに所属し、インドの医療現場、東日本大震災後の復興現場などを訪問させていただきました。そこでは、研究室からでは見えなかった多くの現実に出会いましたし、ときに歓迎されない場面を経験することで、自分が社会の中でどう見られるかを意識するようになりました。
 大学院に進学した当初は、ただただ研究が楽しくて、それだけでいいやと思っていました。でも、このプログラムを通して、今後研究を続けるのであれば専門家としての責任を持たなくてはいけないことを教えてもらいました。

今後取り組みたいこと

 今はテニュアトラック期間中なので日々学ぶことばかりですが、これからも熱帯林の研究を続けていきたいです。熱帯林といっても地域によって生育する植物や開花のタイミングはさまざまで、とても魅力的です。将来的には、「どの地域にどんな植物が生育し、いつ花を咲かせるのか」を一枚の大きな地図として描くことが目標です。

家庭との両立

 夫と犬と一緒に暮らしています。もともとオンとオフをはっきり分けるタイプなので、多少帰りが遅くなることがあっても仕事は職場でやりきるように努力しています。家では仕事関係でパソコンを触らないことを意識していて、夫と一緒にいる時間は、できるだけ会話ができる環境をつくりたいと思っています。

休日の過ごし方

 愛犬が海や山が大好きなので、週末のうち1日は、必ずどこかに出かけるようにしています。最近は、人の少ない砂浜に出かけて、夫とキャッチボールをしながら、その周りを犬がぐるぐる走り回る、そんな過ごし方が定番になっています。

後輩へのメッセージ

 大学院生のみなさんには、自分の好きなことを貫いてほしいです。周りの意見に流されず、自分の意思で決断した方が後悔のない人生になると思います。あとから、あの決断は失敗だったと思ったら、反省して次に活かせば良いんです。
 学部生のみなさんには、できるだけ早く、自分が好きなことを見つけてほしいです。修士・博士課程に進むかどうかを迷っているなら、研究を続けられる環境があるうちに挑戦することをお勧めします。
 また、「博士課程に進学しないことを決めているのに、修士課程に進学するのは良くないのではないか?」 「アカデミアの研究職に就きたいわけではないのに、博士課程に進むのは指導教員に失礼なのではないか?」と不安に思う方もいるかもしれません。
 そんなことはありません。大学院は、主専攻の専門知識を深め、研究技能を磨くとともに、思考力・判断力・表現力といった総合的な力を養い、見聞を広げる場だと思ってほしいです。
 私は、何かを決断するとき、3つの条件を確認します。自分の意思(自分がそれをしたいか)、相手の意思(相手がそれを求めてくれているか)、周囲の環境(それが許容されるか)。この3つの条件がそろったとき、私は迷わず一歩を踏み出すようにしています。