Supporting Women Pursuing Doctoral Degrees 博士号を目指す女性を支援する取り組み

Abrianna Elke Chairil(アブリアンナ エルケ チャイリル)

2026年3月修了

  • 所属:

    • 麻生セメント株式会社 田川工場品質管理課
  • 部局:

    • 生物資源環境科学府 資源生物科学専攻(水産生物環境学研究分野)
現在の仕事内容

 私の会社は、主にセメントを生産する会社です。その品質管理課で、商品の品質だけでなく、その原料や製造に使う燃料についても、安定した品質を保てるように、化学分析をして、日々チェックしています。問題が見つかったときは、原料が原因なのか、燃料である石炭なのか、それとも製造工程のどこかに原因があるのかを調べます。

 よく問題になるのが、「固化材」です。固化材は、建物を建てる前に地盤を固めるため、土と混ぜて使われる材料です。固化材に含まれるセメントには六価クロムという成分が含まれていて、水と反応すると溶け出す可能性があります。六価クロムは環境への影響が懸念されるため、基準値が定められています。その基準を満たしているかを確認することも私たちの仕事の一つです。

仕事のやりがい

 私にとって一番やりがいを感じるのは、実際に手を動かす仕事です。もともと実験が好きで、試薬を準備したり、サンプルを調整したり、分析したりすることは、学生の頃から楽しいと感じていました。今の仕事でも、自分で試薬を使って、さまざまな分析や測定を行うことに、やりがいを感じています。分析を終えて結果を確認し、報告まで終わると、「無事に終わった」とホッとしますし、「この仕事は楽しいな」と感じます。

 もう一つのやりがいは、社会インフラを支えている実感を持てることです。セメントは普段あまり意識されませんが、道路や建物など、とても身近なところで使われています。自分たちが品質を守っている製品が、実際に社会のさまざまな場所で使われているという気持ちが今のやりがいにつながっています。

 また、会社が福岡にあることも、私にとって大きな魅力です。大学時代からずっと福岡で過ごして、この街が好きになりました。仕事を通して福岡に貢献できていると感じられることも、大きなやりがいの一つです。

博士課程に進学したきっかけ

 学部生の頃から、博士課程への進学を考えている友人が周囲にいたこともあり、「博士課程に進むのもいいな」、「挑戦してみるのも面白そうだな」と、なんとなく考えていました。

 実際に進学を考えるようになったきっかけは、研究室に配属されてからです。一番大きかったのは、指導教員との出会いでした。先生との相性がとても良く、博士課程への進学を決めた理由の6割くらいは先生だったと思います。研究の進め方も自由度が高く、自分で考えて進め、結果が出たら先生に報告するというスタイルで、私にはすごく合っていました。

 もちろん、研究テーマそのものにも興味がありました。修士課程では少し方向性を変えながら研究を進め、その内容をさらに深掘りしたものが博士課程での研究テーマになりました。「自分が納得するまで、この研究を続けたい」という気持ちが強くなり、博士課程への進学を決めました。

 英語で言う “right place, right time” だったと思います。指導教員との相性が良く、研究室の雰囲気も良く、研究テーマにも恵まれていました。そうした環境がすべてそろって、「博士課程に進もう」と自然に思えたのだと思います。

博士課程で大変だったこと・その乗り越え方

 一番大変だったのは、孤独さですね。あまり口にする人はいないかもしれませんが、多くの博士学生が感じていることじゃないかなと思います。私の家族には博士課程を経験した人がいなかったので、家族や母国の友人たちに分かってもらえるのは、「大変」ということだけでした。実験で失敗したり、研究がうまくいかなかったりする苦労までは、なかなか理解してもらえません。また、後輩の相談に乗ることもあれば、研究室の仕事もありますし、自分自身の研究も進めなければいけません。でも、その忙しさや大変さは、なかなか周りには伝わりません。

 孤独を乗り越えるためには、博士の大変さを理解してくれる人とつながることだと思います。私の場合は、同じ研究室の先輩と月に一度ご飯を食べながら、お互いに悩みを話していました。先輩が卒業した後は、今度は後輩とご飯に行くようになり、支えあえる関係が続いていきました。

 また、水産分野の他研究室の博士学生と食事に行くこともありました。今振り返ると、あの時間がなかったら、乗り越えられなかったかもしれません。特に留学生は、日本で一人で頑張っている人も多いので、研究室の枠を越えて気軽に話せる仲間がいることは、本当に大事だと思います。だから、私が一番伝えたい博士課程の乗り越え方は、“Have a life outside of your work.” ということです。研究室の外にも、自分が安心できる居場所を持つことが大切だと思います。

博士課程の経験から得たもの

 博士課程を経験したことで、「これを乗り越えられたんだから、これから先は何とかなる」というマインドセットが身についたと思います。例えば仕事で失敗することがあっても、「失敗したら終わり」ではなく、「どうすれば改善できるか」を考えられるようになりました。自分で解決できなければ周りの人に相談して、一緒に解決方法を探す。そういう考え方が自然にできるようになりました。

 また、実践的なスキルもたくさん身につきました。中でも大きかったのは、プロジェクトマネジメントの力です。博士の研究は一つのプロジェクトのようなもので、自分で計画を立て、スケジュールを管理しながら実験を進め、最後は論文という形で成果をまとめます。そうした経験を通して、計画力やタイムマネジメント、コミュニケーションなど、さまざまなソフトスキルを身につけることができました。

 人前で話すことにも、以前ほど緊張しなくなりました。学会発表を何度も経験するうちに、少しずつ慣れていきました。博士論文の公聴会も、大変でしたが、楽しかったと思えるくらいです。

今後、取り組んでみたいこと

 まずは、今の仕事にしっかり慣れていきたいですね。学生時代の専門分野とは異なり、今の仕事は化学の知識がベースになるので、新しく学ぶことがたくさんあります。でも、知識は時間をかけて学べば身につくものだと思っています。もちろん努力は必要ですが、一つひとつ覚えながら、自分の力にしていきたいです。

 また、博士論文の内容を論文にしてまとめ、学術誌に投稿することも目標にしています。休日には大学に行って論文を書くこともありますが、締め切りに追われることがなくなったので、今は自分のペースで進められるようになりました。「意外と今日は進んだな」と感じられる日もあります。

 少し先の話になるかもしれませんが、将来的にはMBAにも挑戦してみたいと考えています。どのような道を選んだとしても、マネジメントの力は必要になると思っています。だから、いつかきちんと学んでみたいと思っています。

休日の過ごし方

 休日は、気分転換を大切にしています。その日の気分で過ごし方を決めています。家でのんびり過ごしたい日は、一日ゆっくり過ごしますし、「甘いものが食べたいな」と思ったら、カフェでのんびり過ごすこともあります。アウトドアな気分の日は、釣りに出かけたり、友達とご飯を食べたり、飲みに行ったりすることもあります。

 休日でも大学に行って論文を書くこともありますが、その日の気分に合わせて過ごすのが、私らしい休日の過ごし方です。

後輩へのメッセージ

 後輩に伝えたいのは、「進む道はいくらでも変えられる」ということです。博士課程に進むと、「博士=大学の先生」や「博士=研究職」というイメージを持つ人も多いと思います。でも、私は研究職ではなく、企業で分析の仕事をしています。博士課程を修了した後の進路は、一つではありません。

 もし博士課程に進んでみて、「思っていたのと違うな」と感じたとしても、それは決して失敗ではありません。途中で進路を見直すのも一つの選択ですし、修了してから別の道に進むのも、もちろんありです。だから、「この道が正解」というものはないと思っています。自分で考えて選んだ道なら、それが自分にとっての正解になります。もし進路に迷うことがあっても、あまり恐れなくていいと思います。間違った道はありません。最後は、自分の人生は自分で決めていけばいい。その気持ちを大切にしてほしいですね。